排卵誘発療法には、排卵障害に対して排卵を起こすという本来の目的と、より多数の卵子を排卵させることにより受精率、妊娠率を向上させる目的があります。
排卵誘発剤として広く用いられている製剤で、視床下部(間脳)を刺激して排卵を起こす作用があります。視床下部 (間脳)からは GnRH というホルモンが分泌され、卵巣からの排卵を起こします。このホルモンの分泌が少ない場合に、クロミフェンを投与することによりその分泌が促進されます。
またクロミフェンを使用して卵子が成熟しても、卵子を排卵させるのに必要なLHというホルモンが放出されないことがあります。この場合は卵胞が成熟した時点で LH と同じ作用を有する HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)という注射を投与して、卵子の放出を促します。
製剤名 | clomiphene(クロミッド、セロフェン、フェミロン) cyclophenyl (セキソビッド)など |
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使用法 | 月経 第3日あるいは第5日より5日間、1日1-3錠内服します。 クロミフェンの内服開始後 10日位で卵胞 (卵巣内で卵子を包む袋)が20-26mm位に発育し、排卵が起こります。 クロミフェンは排卵誘発効果も高く、不妊治療の第1段階としてしばしば用いられる薬ですが、一方で頸管粘液の分泌や子宮内膜の肥厚が妨げられることがあります。この現象はクロミフェンの使用が長期化するとより顕著になります。頸管粘液が分泌されなければ精子は子宮内に侵入できませんし、内膜が薄ければ胚は着床しません。クロミフェンで排卵誘発を行い6周期以内に妊娠しなければ、他の治療法に変更した方がよいでしょう。 |
副作用 | クロミフェン療法では、発育卵胞は1-3個とそれほど多くの卵子が発育することはありませんが、ごくまれに過剰刺激や卵巣腫大をきたすことがあります。 また、服用中に吐き気を催すことがまれにあります。多胎妊娠率は2%程度です。 |
HMGは下垂体から分泌される卵巣刺激ホルモンであるFSH作用を有する薬剤で、下垂体の機能が低下した無月経に対する治療薬です。下垂体無月経や多嚢胞性卵巣による無月経がHMG療法の適応となります。下垂体からは LH、FSH という2種類のホルモンが分泌されますが、HMG製剤にもFSH とともに LH が含まれており、その含有量が製剤により異なります。LH成分に比べてFSH成分の多い製剤をFSH製剤と呼びます。両者の使い分けは次のようになります。
FSHを 用いる場合 |
年齢が若い場合、多嚢胞性卵巣の場合、もともと排卵があるひとに対して用いる場合、血中LHが高い場合。 |
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HMGを 用いる場合 |
下垂体機能が低下している場合、年齢が高い場合、以前にFSHをもちいて良好な反応が得られなかった場合、血中FSHが高い場合。 HMG製剤は更年期女性の尿から作るため、ヒト由来の蛋白質のような異物を完全に除去できていない場合があります。そのため注射によるアレルギー反応として注射部位が赤くはれたり、何回か使用を続けるうちに注射に対する反応が悪くなることもあります。このような場合は別の製剤に代える必要があります。HMGには飲み薬はなく、注射による投与となります。 また、注射による効果は24時間しか持続しませんので、卵子が成熟するまで毎日注射を続ける必要があります。 |
HMG/FSH療法における多胎妊娠について
HMG/FSHを用いて排卵数を上げることは多胎率を増やすリスクがあります。卵胞数が2-3個であっても多胎を起こす可能性があります。当院ではFSH/HMG療法を行う際、できるだけ多胎のリスクを減らすために注射の開始日を遅め(通常第7日目ころから)とし、注射も一日おきとしています。発育卵胞数があまり多い場合には途中で治療を中止することもあります。
遺伝子組み替え(リコンビナント)FSH製剤 (製剤名:フォリスチム)
尿由来のFSH・HMGは1960年代から使われてきましたが、尿から抽出するため、いろいろな感染症についてのスクリーニングをしなければなりません。以前は欧州でつくられていましたが、今は中国などで製造されています。FSH、HMG製剤の需要の拡大からその供給が不安定ななりつつあることから、遺伝子組み替えによる、より純粋なFSH製剤が開発され、欧米ではすでに長期にわたり使用されています。 この製剤も日本使用が可能になりました。
従来の尿由来の製剤に比べて治療成績も良いという報告もあり、今後はこの製剤が主流になっていくと考えられます。今はまだ一般の排卵誘発に対しては保険適応が限られているため、主に体外受精などの治療に用いられています。
製剤名 | 尿由来製剤: HMGフジ、HMG日研、 ゴナピュール、など |
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遺伝子組み替え製剤 | フォリスチム |
使用法 | 月経 第3-5日より連日あるいは隔日筋肉注射。FSHは皮下注射も可能(自己注射ができます) 卵胞直径が 16-18mm、卵胞あたりのエストロゲン(E2) が200pg に達したら卵子が充分に成熟したと推定されます。 この時点でLH作用を有する HCG を投与することにより排卵が起こります。 |
下垂体からはプロラクチンというホルモンもまた分泌されます。プロラクチンは通常分娩後に分泌が亢進し、乳汁分泌をもたらします。この抑制が何らかの理由により妨げられ、プロラクチン(PRL)分泌が過剰になるのが高プロラクチン血症であり、無月経、排卵障害、卵子成熟障害、着床障害などを引き起こします。高PRL血症の内服治療薬としてブロモクリプチン、テルグリドがありますが、最近はカバサールという薬剤が用いられます。この薬剤は週1回の投与で充分な効果を得ること、吐き気などの副作用が少ないという利点があります。
製剤名 | パーロデル(ブロモクリプチン)、テルロン(テルグリド)、カバサール |
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使用法 | 1日1-2錠、連日内服、悪心、嘔吐がある場合は1日半錠。 |