胚の凍結保存は1983年から行われており、すでに25年の歴史があります。体外受精では、過排卵により平均7〜8個の卵子が採取されますが、このうち移植に供する胚は2個までです。人によっては排卵誘発により卵子が20個近く採取される場合もあり、そのような場合には卵巣過剰刺激症侯群の発症が危惧されます。そこで
という目的で胚の凍結保存が行われます。
細胞を凍らすと細胞内の水分が結晶(氷)を作り、細胞質を破壊してしまいます。 胚を壊すことなく凍結するためには卵細胞の中にある水分を脱水することが必要になります。
そのために凍結する前の胚をアルコールなどを含んだ凍結保護剤に浸します。この際いきなり高濃度の保護剤に浸けるのではなく少しずつ濃度を上げていきます。凍結保護剤に浸された胚は細いストローに移された後、プログラムフリーザーという器械を用いてゆっくりと凍結します。
凍結胚は液体窒素を満たしたタンク内で長期にわたる保存が可能です。解凍する場合は、ストローを取り出して暖め、凍結したときの逆のステップで培養液に戻します。良好な胚を凍結解凍した場合75-80%の胚が生存し、生存胚あたりの妊娠率は新鮮胚と同様です。
近年、プログラムフリーザーを用いない新たな凍結方法としてVitrification法(ガラス化法)が開発され、
その治療成績も安定し、現在はスロークーリング法に代わって凍結法の主流になりました。ガラス化法では細胞内に氷を作らないように高濃度の溶液に浸し、一気に凍結します。
この方法の利点は今まで凍結が困難であった胚盤胞や未受精卵の凍結が可能になったことです。胚盤胞移植が普及した現在、多くの施設でこの方法を凍結に用いています。当院でもこの方法を用いています。
凍結胚を解凍し移植する場合、
があります。両者で成績に差はありませんが、排卵が不規則であったり、内膜が薄い場合には人工周期を用いる必要があります。 また、人工周期の場合は月経開始時に移植日がきまるので、予定を決めやすいという利点があります。
Assisted hatching(AHA,アシステッドハッチング)
Hatching(孵化)とは胚が透明帯から出てることをいいます。ヒトの卵は卵細胞とそれを取り囲む透明帯で構成されています。透明帯は受精の際に精子が何匹も侵入する多精子受精を防ぐ役目をしますが、受精後は 分割してくる細胞を立体的にまとめる役目をします。細胞分裂はさらに進み、やがて胚盤胞と呼ばれる細胞の塊になります。拡張した胚盤胞は透明帯を破り外へ脱出し(Hatching)、着床の準備が整った子宮内膜にくっつき(着床)、妊娠が成立するわけです。ところが、胚盤胞が正常でも透明帯が厚い、あるいは硬いような場合、うまく孵化(Hatching)が起こらず着床できない受精卵があると考えられています。そこで、あらかじめ胚移植を行う前に透明帯に切れ目を入れて着床しやすくするのが アシステドハッチングです。
アシステッドハッチングにはいくつかの方法が報告されていますが、我々は透明帯を機械的に十字に切開する方法を用いています。これは薬品による方法に比べ胚への影響が少ないと考えられます。