Fertility Clinic Tokyo
当院の不妊治療

当院の不妊治療

生殖補助医療について

精子や卵子を体外で操作し、妊娠を図る方法を生殖補助医療といいます。
不妊治療を始めた方のうち、前章までお話した一般不妊治療で妊娠するのは残念ながら、4割以下です。一般不妊治療で妊娠に至らない場合、これからお話する体外受精などの補助生殖医療が必要になることが多くあります。

体外受精―胚移植(IVF-ET)法

どのような場合に体外受精が必要なのでしょう?卵管が閉塞していたり、精子が不良でAIHでの妊娠が困難な場合などははじめから体外受精の適応になります。原因不明不妊の場合でも一般的不妊治療を1年以上続けて妊娠しない場合には体外受精を考慮するべきでしょう。
また、年齢が高くなればどのような方法を用いても妊娠率は低下しますので、早めに体外受精に進むことをおすすめします。

体外受精-胚移植における卵巣刺激法

体外受精-胚移植では卵を複数発育させるための薬剤(HMG注射やクロミフェンの内服)と自然排卵を抑えるための薬剤(GnRHアナログ、GnRHアンタゴニストなど)を必要とします。

体外受精は当初自然周期で実施されていましたが、妊娠率を向上させるためにクロミッド、HMGを用いるようになり、1980年代後半からGnRHアナログ/HMG(FSH)/HCG 法が主流になっていましたが、数年前からはGnRHアンタゴニストが導入され、現在の標準的な方法となっています。

妊娠率は刺激を行った方が高くなる一方で自然周期やクロミッドを用いた方法では妊娠率は低いですが、注射の負担が軽減されるとともにOHSSや多胎妊娠の危険は低下します。
どの刺激法を用いるかについては年齢、ホルモン値、個別の卵巣の反応性などにより決定されます。以下に現在用いられている主な卵巣刺激法について述べます。

刺激周期による方法
(GnRHアゴニスト(アナログ)-HMG(FSH)-HCG法)

1980年台後半より行われている方法です。GnRHアゴニスト(ナファレリール、ブセレキュアー)は本来子宮内膜症の治療に用いられる点鼻薬です。この薬剤を使用すると排卵が抑制されます。そのため自然排卵を抑えながら卵子の発育を調整することが可能です。
GnRHアゴニストの使用法には前周期の黄体期(高温相)中期から使用するLong法と月経開始直後より使用するShort法の2種類があります。

当院ではLong法を主に用い、年齢が高かったり、卵巣機能が低下、FSHが高い場合などにShort法を用いています。HMG/FSH製剤は月経第3日から開始します。HMG製剤には下垂体から分泌される FSHおよび LHというホルモンが含まれていますが、FSHとLHが等量あるいは3:1位の割合で含まれているものを HMG製剤(HMGフジ)、FSHを多く含むものが FSH製剤(フォリスチム、ゴナールF、HMGコーワ、フェルティノームPなど)です。
HMGとFSHは卵巣の反応により使い分けますが、簡単にいえば卵巣の反応があまり良くない場合はHMGを、逆に過剰反応を起こす場合には FSHを用います。HMG/FSH製剤は24時間で効力が低下するため連日注射を続ける必要があります。FSH製剤は皮下注射も可能です。

HMG/FSH注射量は、1日およそ150〜300単位ですが卵巣の反応性により増減します。

月経8〜9日ごろから経膣超音波法により卵巣内で発育する卵胞の数およびその卵胞径を計測するとともに血液中の卵胞ホルモン(エストロゲン)を測定します。
卵胞が直径16〜18mmに発育し、卵胞1個あたりの血中エストロゲン値がおよそ200pgに達した時点で夜の10時にHCGというホルモンを注射します。例えば、卵胞数が6個の場合エストロゲン値はおよそ1200〜1500になります。下垂体から放出される LHホルモンの作用を持ち、卵子の最終的な成熟を促すとともに HCG投与後36時間で排卵が起こります。
そのため排卵直前、すなわちHCG投与後34〜35時間後である朝の7時半〜9時半ころに採卵を行います。

GnRHアンタゴニスト(セトロタイド、ガニレスト)を用いた刺激法

ロング法、ショート法は妊娠率も高く、良い卵子が多くとれるため、多くの施設で用いられていますが、時に卵巣過剰刺激症候群が発生することがあります。
一方で年齢が高い場合には刺激をしても卵が1〜2個しか発育しないことがあります。このような場合にはGnRHアンタゴニスト(セトロタイド、ガニレスト)を用いた方法が用いられます。GnRHアンタゴニスト(セトロタイド、ガニレスト)は自然排卵(LHサージ)を抑える新しい薬剤で、日本では2年前に発売されましたが、当院ではそれ以前から海外より輸入して使用しています。この方法ではロング、ショート法に比べて卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが少なくなります。
また、GnRHアナログは投与初期にLH・FSHが上昇するため、まれに早期に黄体ホルモンが高くなって、良い卵が得られないことがありますが、アンタゴニストはそのリスクが少ない製剤です。

GnRHアンタゴニスト(セトロタイド、ガニレスト)はHMGやクロミッドなど、どんな刺激法にも用いることができ、卵胞がおよそ14mmに達した時点からセトロタイドを連日(平均3日くらい)皮下注射します。この方法を用いた場合、OHSSのリスクを避けるために夜のHCGのかわりにGnRHアゴニスト(ブセレキュア)で排卵を起こすことも可能です。
ただし、この場合、排卵後の黄体ホルモン分泌が悪くなることがあり、胚を移植せずに凍結することがあります。

低刺激周期による採卵

年齢が高かったり、FSHが上昇しているために1)、2)の方法で卵子が1〜2個しか得られない場合、逆に年齢が若く、卵巣が刺激に対して強く反応する場合には刺激法は不向きです。
このような場合には刺激を少なくして採卵を行います。

方法) クロミッド(セロフェン)1ないし2錠を月経第3日より開始。状況に応じてFSH/HMGを第5ないし7日から1日おきに注射。卵胞が14ミリに達したらアンタゴニストを開始。卵胞が18ミリに達したらブセレキュウア点鼻でサージをおこす。あるいはクロミッド(セロフェン)1ないし2錠を月経第3日より開始。卵胞が18ミリに達したらブセレキュウア点鼻でサージをおこす。

治療前周期のピルコントロール

自然の排卵周期ではたいていは一つの卵子のみが排卵しますが、この卵子の選択は前の周期の後半に始まっているといわれています。この選択がうまくいかないと良い卵子が得られなかったり、発育する卵子のばらつきが生じたりします。これを防止するために、前の周期にホルモン製剤を用いることがあります。

使用される製剤には、低容量ピルであるマーベロンや卵胞ホルモン(エストロゲン)、黄体ホルモン(プロゲステロン)の組み合わせなど、何種類かありますが、個々の卵巣の機能により決定します。

採卵と卵子の確認

卵子は卵巣の表面にある卵胞という袋の中にあって、卵胞の内壁にくっついて成熟しますが、排卵直前になると壁からはがれてきます。この時点で経膣超音波を用いて長い注射針を刺入し卵胞液とともに卵子を吸引します。針を刺すときには痛みを少し伴いますので、当院ではプロポフォールという静脈麻酔薬を用いて眠っているうちに採卵を行います。採卵に要する時間は吸引する卵胞数によりますが概ね5分〜10分くらいです。

採卵後はお昼までお休みいただき、出血などがないことを確認の上帰宅していただきます。採卵当日は比較的安静を保ち、激しい運動や過度の飲酒はお避け下さい。培養室では吸引された卵胞液を顕微鏡下で確認し、卵子を探します。卵子は直径約0.1mmと小さいため肉眼では確認できませんが顕微鏡を用いれば容易に見つけられます。卵子が充分成熟しているかを判定し、それに基づいて精子をふりかける(これを媒精といいます)までの時間を決定します。体内でのことを考えて下さい。排卵した卵子は卵管采から卵管に取り込まれ、卵管の膨大部という部分で精子と出会うまでの数時間を過ごします。

体外受精では実際に排卵するより若干早めに卵子を採取するのでこれを加味して数時間培養することが必要になるのです。卵子の培養は 37℃に保たれて、炭酸ガスを5%含んだ気相の孵卵器内で行います。

受精

精液中には精しょうという液体成分が含まれており、精しょうは精子を保護する働きをします。そのため射精された精子は普通の温度で数時間元気に生きています。したがって精子を2時間以内に届けられるのであれば自宅で採取しても問題ありません。ただし3時間以上時間がかかる場合はクリニックの採精室(2部屋あります)で採取するのが良いでしょう。

採精前には3〜5日の禁欲をして下さい。採取された精液には精しょうや他の分泌液、雑菌、白血球などが含まれているので、これを除去するために、数回洗浄します。

さらに良い運動精子だけを拾い上げるために精子を調整します。精子の調整法として、いくつかの方法がとられていますが、一般的に行われているのはSwim-up法です。この方法では精子を洗浄した後培養液の底に置き、上方に泳いでくる運動精子を採取します。精子の状態が悪いときはパーコールという溶液を用いて精子を調整します。精子を調整した後一個の卵子あたり5〜10万/mlの精子を卵に添加(媒精)します。

顕微授精(ICSI)法

精子が極めて不良で、通常の媒精では受精が難しいと予想される場合や精巣(睾丸)から採取された精子を用いる場合には顕微授精法を用います。現在は顕微授精法として卵細胞に精子を直接注入するICSI法が用いられています。ICSIでは細いガラス針を用いて精子を卵子内に直接注入します。ただし、すべての精子で授精が可能ということではなく、充分に成熟して、正常な形態を有さなければ授精は成立しません。

IMSI法―新しい顕微授精法

顕微授精(ICSI)法では精子を約200倍という倍率で精子を選別、注入します。しかしこの倍率では精子の構造を細かく観察することはできません。新しく開発されたIMSI法では精子を1500倍から6600倍という高倍率で観察できるため、精子の構造、特に精子頭部の状態がより詳細にわかります。精子の頭部に空胞がある精子はDNAの構造異常が多いといわれており、IMSI法によってより良好な精子の選別ができる可能性があります。

受精の確認、胚の発育

精子が卵細胞質に侵入し、核(前核)を形成した状態を受精といいます。媒精翌日に卵子を観察すると受精した卵では卵子内に卵子、精子由来の前核、二つの極体が認められます。受精確認後の卵子を胚と呼びます。つまり受精卵と胚は同じ意味です。前核を一つのみ、あるいは三つ以上認める卵子は異常受精卵なので移植は行いません。また受精しなかった卵子は前核を認めません。受精卵に認める二つの前核は次第に近づき、融合します。この状態を接合子といいます。接合子はその後分割を始め、翌日には2〜6分割胚となります。

胚移植

胚移植は通常採卵の3日〜5日後に行います。胚が良好かどうかの判別は

  • 細胞分裂が進んでいる。
  • 卵細胞の一つ一つが均一で張りがあり、内部構造に異常を認めない。
  • Fragmentと呼ばれる小球が少ない。

などの点から選別します。ただしこの時点の判定が常に正確ということではなく、移植に不適当と判断された胚を数日培養すると非常に良い発育を示したり、あまり良好とはいえない胚を戻しても妊娠、分娩に至ることがあります。移植する胚の数が少なければ妊娠率が下がりますし、多ければ多胎妊娠が増加します。日本では日本産婦人科学会のガイドラインにより移植胚数は3つまでと規定されていますが、当院では多胎妊娠を避けるために原則として移植胚は1個、多くても2個以内と決めています。

移植は超音波モニター下に細いカテーテルを子宮頸管部から子宮内に挿入し、人工授精と同様な方法で行います。胚移植は痛みを伴いませんので麻酔は用いません。子宮口が硬かったり子宮頸部に筋腫がある場合にはカテーテルの挿入は難しいことがあり、採卵と同じ様に超音波をみながら細い針で子宮を串刺しにしながら子宮内膜に胚を送り込む経筋層的移植法が用いられます。

ただし、この方法で妊娠率が大幅に向上することはありません。カテーテルがスムーズに挿入できれば普通の方法で十分です。胚移植後の安静時間は15分〜4時間とさまざまですが、安静時間を長くすることで妊娠率が向上することは無いようです。当院では30分の安静をとっています。

胚盤胞(Blastocyst stage)移植

初期の発生段階をみてみましょう。 卵は最初、透明帯に覆われています。受精すると卵の細胞はこの中で分裂し、やがて桑実胚を形成します。 その後、桑実胚 は胚盤胞(blastocyst)になり、透明体を破って外へ脱出し(Hatching)子宮内膜へ着床します。

体外受精胚のうち、胚盤胞に達するものは約50%にすぎませんが、形態が良好な胚盤胞では高い着床率を得ることができます。胚盤胞への培養は長い間困難でしたが、培養液の進歩により、今では安定した成績を得るようになりました。

また、この時期の胚凍結が安定してきたことも普及の一因といえます。ただし、受精卵の数が少なければ、胚盤胞を得られないことが多くなるので、早い時期に移植を行うことがあります。 一方で、たくさんの胚が得られた場合は有効な方法と考えられます。当院では胚盤胞移植を第一選択とし、卵子、胚の数が少ない場合は分割胚(3日ころ)で移植します。

移植後の治療と妊娠の判定

胚移植後は激しい運動など無理をしなければ、仕事を含めて通常通りの生活をして差し支えありません。
ただし卵巣の腫大や卵巣過剰刺激症候群の可能性があれば安静が必要な場合があります。俗にいわれるストレスなども、着床には影響しません。

移植後には黄体補充療法として黄体ホルモンの内服あるいは注射を行います。黄体補充療法としてHCGを用いることもありますが、その場合卵巣過剰刺激症候群を悪化させることがありますので当院ではHCGは用いていません。(HCGを投与すると1週間位は尿妊娠反応が陽性を示すことがあります。)胚移植後2週間で血中HCGを測定し、妊娠を判定します。

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